11/12(金)シネスイッチ銀座、シネクイント、大阪ステーションシティシネマ他全国順次公開


©2021“HARUOMI HOSONO SAYONARA AMERICA”FILM PARTNERS

 
細野晴臣が2019年に行った初のアメリカソロライブがドキュメンタリー映画になった。主な内容はニューヨークとロサンゼルスにおけるライブ映像とインタビュー(本人、関係者、聴衆など)といういたってシンプルなものである。監督は、細野晴臣のデビュー50周年に彼の軌跡を映画にした「NO SMOKING」の佐渡岳利が再度メガホンを取った。
 
細野晴臣とは日本が誇る、天才音楽家である。

音楽を好きな40〜50代であればほとんどの人は、はっぴいえんどやYMOにいた細野晴臣は知っているだろうか?細野晴臣は昭和期に急拡大した日本の音楽マーケットに影響を与え、長きに渡りさまざまな活躍をしたアーティストであり、ベーシスト、作曲家、プロデューサーである。小学校の音楽室にベートーベンやショパンの肖像画があるが、100年後の音楽室に彼の肖像画が飾られていてもおかしくないぐらいの稀有な音楽家の一人である。

「エイプリル・フール」でデビュー。その後大滝詠一らと結成した「はっぴいえんど」は日本語ロックの先駆的存在として、その後の音楽シーンに多大な影響を与えるも、わずか3年で解散。その後、ソロ活動と並行して結成した「ティン・パン・アレー」では荒井由実などさまざまなアーティストのプロデュースも行う。1978年に高橋幸宏、坂本龍一とイエロー・マジック・オーケストラ(YMO)を結成。彼らが広めたテクノポップという新しいサウンドは日本中の少年少女から大人たちまで熱狂させ、海外の音楽シーンにも大きな影響を与えることになった。YMO活動中には松田聖子や中森明菜をはじめとする当時のトップシンガーに楽曲を提供しヒットさせつつ、ベーシストとしても数多くのレコーディングに参加し続ける。

その後も、ワールドミュージック、アンビエントミュージックを探求しつつ、作曲・プロデュースなど多岐にわたり活動。サウンドトラックも数多く手掛け、「万引き家族」においては「第42回日本アカデミー賞」最優秀音楽賞を受賞した。

細野晴臣の歴代のバンドには、松本隆、松任谷正隆、坂本龍一など後に日本の音楽シーンを左右するような活躍をした人も多く、現代だと星野源などが細野による影響を語っている。細野自身に才能を集める求心力があったと同時に、ミュージシャンへの音楽的、精神的影響力も大きく、彼の実の音楽活動以上に音楽界へ与えた影響は大きかったのではないかと思う。
 
マスクがいらなかった時代の自由な空気を切り取ったライブ

そんな彼の映画は、まずはコロナ禍に襲われたマスク社会について、現在の細野自身が語ることからはじまり、それ以前のマスク無き時代を振り返る。思い出話とともに、2年前の高揚感あふれる自由な空気感の中で開催されたアメリカ2大都市ライブの様子が繰り広げられる。


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ニューヨークとロスアンゼルスの公演はどちらもソールドアウトで、会場の外に列をなす現地の人たちはアメリカ中からこのライブのために集まっている。「彼の音楽には狂気と暖かさがある」と言ったアメリカ人をはじめ、自分たちがどれほど細野の世界を知り、愛しているかを熱心に語るのを聞いていると感慨深い。アメリカンミュージックに強く影響を受けた細野が東洋の感覚を織り交ぜて完成させたチャンキーミュージック。それをアメリカ人が心から受け入れ、彼を崇めている様は、細野の音楽性が国境を超えて人々の心を捉えているのだと実感でき、とても感動的である。

ライブシーンとして映画に登場する演奏は全17曲。「薔薇と野獣」「住所不定無職定収入」などホソノハウスからや、「RooChoo Gumbo」「香港ブルース」など初期ソロのナンバーが比較的多いのも古参ファンには嬉しいところだ。「SPORTS MEN」「BODY SNATCHERS」あたりがとりわけアメリカ人にはウケていたように思う。

サポートメンバーは高田漣(Guitar)、伊藤大地(drums)、伊賀航(Bass)、野村卓志(Keyboards)の4人。細野に選ばれただけあって全員が上手いが、特に高田漣の貢献度が高く、ライブの質そのものを爆上げさせていたように思う。ギター以外にマンドリンやスチールギターなど、どの楽器も達者かつ気の入った弾きこなしで、今の細野バンドのメインカラーとなっているような印象を得た。


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この映画を細野晴臣を良く知らない若い音楽好きに薦めたい

細野晴臣の音楽はカタチにとらわれてなく、それでいて聴くと気持ちが良い。多くの音楽はまずジャンルという分類があるのにこの人の場合はジャンルに当てはめるのが難しい。いろいろなことをやっているというだけでなく、ひたすら勝手でもあり、他の人では許されないであろう自由さがある。

音楽とはここまで自由なものなのだということを体感できることが細野晴臣という存在の価値に思える。ボカロ系音楽も自由で勝手気ままなジャンルだとは思うが、その自由さとはニュアンスが少し違うように思う。細野の自由さは自分を閉ざした感じではなく、ハッピーを振りまきながら海を渡るような、いうなれば聴く人の精神を開花させるような音楽である。

チャートに上がるポップスやサブスクのレコメンド、SNS経由でしか音楽を聴かない若い音楽好きな人たちに一度でいいから彼の音楽を体験してみてほしいし、その入口としてこの映画をオススメしたい。


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映画情報

『SAYONARA AMERICA』(サヨナラ アメリカ)

出演・音楽
細野晴臣

監督
佐渡岳利

プロデューサー
飯田雅裕

制作プロダクション
NHKエンタープライズ

企画
朝日新聞

配給
ギャガ

「SAYONARA AMERICA」(公式サイト)

【HARUOMI HOSONO SAYONARA AMERICA/サヨナラ アメリカ/2021年/日本/日本語・英語/カラー/ビスタ/5.1ch/83分】
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