誘拐犯になってしまった青年と誘拐された少女。つかの間の疑似家族のような日々の行方は…。

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貧しさゆえ、犯罪組織からの下請け仕事である死体処理で生計を立てる口のきけない青年テインと片足を引きずる相棒のチャンボクは、身代金目的で誘拐された11歳の少女チョヒを、1日だけ預かることになる。トラブルが重なり、テインとチョヒの疑似家族のような奇妙な生活が始まるが、チョヒの親から身代金が支払われる気配はなく…。出会うはずのなかった者たちの巡り合わせが、韓国社会で生きる声なき人間たちの孤独を浮き彫りにする。

テインを演じるのは、『バーニング 劇場版』(18)のユ・アイン。韓国屈指のスター俳優にも関わらず、新人監督の低予算オリジナル脚本作品への出演が大きな話題を呼び、更には、一切セリフのない難役に、体重を15kg増量して挑み、ベテラン俳優たちをおさえ青龍賞主演男優賞および百想芸術大賞最優秀演技賞、アジア・フィルム・アワード最優秀主演男優賞を受賞。人懐っこい相棒チャンボクに扮するのは「梨泰院クラス」(TVドラマ/20)の悪役が記憶に新しいユ・ジェミョン。
監督は82年生まれの新人ホン・ウィジョン。犯罪映画の常識を覆すユニークな演出と個性的なキャラクター描写で、切なさとアイロニーの入り混じる全く新しい映画を作り上げ、初長編にして、韓国で最も権威のある青龍賞新人監督賞と、韓国のゴールデングローブ賞と呼ばれる百想芸術大賞監督賞を受賞する快挙を果たし、アジア全域のアカデミー賞と言われるアジア・フィルム・アワードで新人監督賞に輝いた。世界各国の映画祭で話題をさらった『はちどり』(18)のキム・ボラ監督と並ぶ、80年代生まれの女性監督が彗星のごとく現れた。

見どころはなんといってもユ・アインの演技だ。セリフが一切ないにも関わらず、彼の表情や動きでテインが抱く怒りや悲しみ、葛藤がこれでもかというほど表現されている。目は口程に物を言う、とはまさにこのことだ。
テインとチョヒ、それにテインの妹であるムンジュの三人が送る日常は、背景に誘拐と死体処理の現実が無ければとても微笑ましい。特に、チョヒとムンジュがまるで本物の姉妹のようにご飯を食べたりお絵描きをしたりする姿は、愛らしい一方で残酷な事実をより突き付けてくるため精神に刺さる。特にラストのシーンはあまりの演出に言葉を失うほどだ。しかし「天才だ…」と思わず呻いてしまう。
社会の闇が生み出した悲劇の連鎖を、ぐっと引き込まれるストーリーと圧倒的な演技力でこれでもかというほどこちらにぶつけてくる。エンドロールの後、暫く椅子から立ち上がれないかもしれないため、ご注意を。

『声もなく』は22022年1月21日 (金)、シネマート新宿、シネマート心斎橋ほか全国順次公開。

映画情報

出演:ユ・アイン、ユ・ジェミョン、ムン・スンア、イム・ガンソン
監督・脚本:ホン・ウィジョン
製作:キム・テワン
撮影:パク・ジョンフン
編集:ハン・ミヨン
音楽:チャン・ヒョクジン、チャン・ヨンジン

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