ベテラン音楽評論家のピーター・バラカンならではの深遠な考察

 
第91回アカデミー賞では監督賞、撮影賞、外国語映画賞の3部門にノミネート、第71回カンヌ国際映画祭にて監督賞を受賞したパヴェウ・パヴリコフスキ監督最新作「COLD WAR あの歌、2つの心」が 6月28日(金)より全国公開された。これを記念して、父親がポーランド人で音楽に造詣が深いピーター・バラカンをゲストに招いたトークイベントが開催された。
本作をすでに3回も鑑賞したピーター・バラカンは「回を重ねるごとにこれまで気づかなかった事に気づけた」と、余白を通して自分なりの想像や解釈も楽しめる、本作の魅力を自分なりに堪能している、と満席の会場に伝えた。
その後、「自身の父親はポーランド人だが、これまでポーランドに行く機会もなく、それほどポーランドに関心を持たないまま大人になってしまった」と語り、偶然今年の4月に、音楽フェスの取材のためにポーランドに行く機会があったと告白。
そこで偶然本作の冒頭に出てくる⺠族合唱舞踏団“マゾフシェ”の原型でもある、素朴な⺠族音楽“農村マズルカ”と出会ったことを明かした。ショパンも愛したと言われるこの⺠族音楽について、「社会主義の時代になると、田舎の農村の音楽はダサいと言われるが、洗練された形にすると初めてみんなが評価する」「政治でこんなにも音楽の形が変わって行くのか」と、いつの時代も社会の波に翻弄されてしまう文化の現実に言及した。

 
実は現在ワルシャワを中心に空前の盛り上がりをみせる農村マズルカ。そのリバイバルの立役者でもあるヤヌシュ・プルシノフスキにつては「彼らは民族音楽を収集してアレンジ、歌い演奏し続けている。アレンジしているため“純粋な伝統音楽”ではないかもしれないが、形は変わっても残り続けていくには重要なこと」と称賛したほか、「3拍子ではあるのだけど、アクセントのつけ方などが独特で一言で表現しきれない」と、農村マズルカの不思議な魅力について語った。
また、劇中で主人公ズーラがジャズクラブで 世界中で大ヒットしたロックナンバー『ロック・アラウンド・ザ・ロック』を背景に踊り出すシーンについては「彼女のパリでの生きずらさを表現しているはず」など、本作の第3の主人公とも言える、音楽を中心とした鑑賞の仕方についても彼なりの解釈を伝えた。音楽に造詣の深いピーターさんならではの、深い視点で本作の魅力を伝えたイベントだった。

映画情報

 
映画『COLD WARあの歌、2つの心』
ヒューマントラストシネマ有楽町、ヒューマントラストシネマ渋谷 ほか全国公開中
ストーリー
ピアニストのヴィクトルと歌手志望のズーラはポーランドの音楽舞踏学校で出会い、愛し合うようになる。冷戦中、ヴィクトルは政府に監視されるようになり、ベルリンでの公演時、パリに亡命する。歌手になったズーラは公演活動で訪れたパリやユーゴスラビアでヴィクトルと再会する。ズーラは彼とパリに住み始めるが、やがてポーランドに戻ってしまい、ヴィクトルも後を追う。二人の愛は結ばれるのだろうか――。
監督
パヴェウ・パヴリコフスキ
脚本
パヴェウ・パヴリコフスキ、ヤヌシュ・クウォヴァツキ
出演
ヨアンナ・クーリク、トマシュ・コット、アガタ・クレシャ、ボリス・シィツ、ジャンヌ・バリバール、セドリック・カーン 他
配給
キノフィルムズ

※この記事はauテレビでも掲載されました。
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この記事を書いた人
栗林 勝/編集者/1970年東京都生まれ。
専修大学英文科を卒業後、20年ほどアダルト・サブカル系出版社で、雑誌・書籍・ウェブ編集を経験。広く、浅く、安く、をモットーにうす〜く生きている。
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