2017年、日本舞踊への固定概念を打破すベく、十世坂東三津五郎の遺志を継いだ松本幸四郎ら日本舞踊協会のメンバーが“未来座”と銘打つ新たなシリーズを発足。以降毎年上演を重ねてきたものの、2020年に予定されていた第4回日本舞踊 未来座=祭(SAI)=『夢追う子』は新型コロナウイルスの影響により延期に。2021年6月に改めて国立劇場小劇場でリベンジ上演を行い、大きな成功を収めました。さらに今回舞台を飛び出し、6月5日(土)の公演回をLINELIVE-VIEWINGで配信することが決定!この新たな試みに向け、出演に構成・演出を手がけた松本幸四郎さんにインタビュー!本公演への想いと手応え、配信への期待をお聞きしました。
総勢47名のリモート稽古!
◆昨年コロナ禍の影響で第4回日本舞踊 未来座=祭(SAI)=『夢追う子』が中止に、今年6月にリベンジ上演を果たしています。公演の実現までは大変な苦労があったのでは?
松本:公演の開催に向け、稽古はまずリモートで始めました。ただ出演は男性12名・女性35名の総勢47名で、また日本舞踊協会の公演ですので、幅広い年齢の方が集まっている。ラインをしたことがないという方もいれば、“Wi-Fiって?”という方がいらしたりと、本当に手探りの状態でしたね。緊急事態宣言でリモート稽古の期間も延び、最終的に対面での稽古をしたのは10日間ほど。極力集まる人数が少なくてすむよう細かくグループわけをしていたので、全員で通したのは稽古場での1日と舞台稽古だけでした。そうした中で前進してこれたのは、日本舞踊を発信するんだというみなさんの想いがあったから。どうすればできるか方向性を探りつつ、止まることひたすら走り続けた結果、なんとか実現することができました。
◆公演のテーマ“祭”に込めた想いをお聞かせください。
松本:第4回公演のテーマは一昨年決まったもので、東京オリンピック開催もあり、これ以上相応しいタイトルはないだろうと考えて付けました。もちろん当時は、こういう状況になるとは想像もしていませんでしたけど……。ただ“祭”にはお祭り騒ぎという意味だけではなく、神に対する祈りであったり、祭る、捧げるという意味もある。何もない世界から人が誕生し、成長し、成長することによって一つの目標を掲げ、夢を掲げ、目標にし、そこに向かって進んでいくーー。人には必ずこの想いがあるもので、それは今回の作品にも込められています。今年のテーマが“祭”であり“夢を追う”になったのは偶然ではあるけれど、どこかに必ず意味があり、今年しかできない作品だったのではないかと感じています。
◆公演延期を経て、改めて舞台に立ったときの心境はいかがでしたか?
松本:
昨年公演が中止になったぶん、『夢追う子』という作品と2年間向き合い、開催に向けてずっと準備を進めてきました。やっとここにこれたんだという達成感がある一方、僕は製作者の立場でもあるので、感慨を覚えてばかりいられないところもあって(笑)。多くの決断に迫られ、必死で頭を動かし、息を切らし、汗をかきつつ、懸命に取り組んできた感じです。いろいろなことがありましたが、結果としてこの公演に2年間じっくり関わることができた、それはある意味幸せなことでもありますね。
発想を自由に日本舞踊に新風を
◆本作では出演のほか、構成・演出を手がけています。どのような構想で作品に取り組んでいったのでしょうか。
松本:僕としては必然的にできた作品だと思っています。まず出演者のみなさんには、それぞれ個々の方が主役ですとお伝えしました。日本舞踊にはいろいろな型がありますが、みなさんが培ってきたものを生かしたい、それが一つの武器だという想いがあり、あえて統一はしていません。振付は4名の方にしていただきましたが、ダイナミックな振りを付ける方、心情的なものを色濃く作る方、ちょっと軽快でポップな振りを作る方と、違ったタイプの方々にお願いしています。それぞれタイプの違う振付を全員が一緒に踊ることで、個々の力が混ざり合い、それが一つの大きなものになっていけばーー、そんな期待がありました。実際僕のイメージしていた以上に力強いものになり、踊り手の方々の培ってきたものの凄さというものを改めて感じましたね。
◆未来座発足の際、“日本舞踊に対する固定観念を覆していく”という信念を掲げています。本作に取り入れた新たな要素とは?
松本:実はこの作品には新しいことは一つも入れていないんです。ただ日本舞踊が培ってきた技で、新しく感じていただける作品を構築したいという想いで作りました。僕自身が考える日本舞踊の根本とは、音にあわせて身体を動かすこと。どれだけ身体を動かし続け、一つの作品として成立させられるか。作品の大前提として、47人が揃って踊る必要がある。そのため音楽はリズムが刻みにくい邦楽ではなく、現代邦楽を使用しています。振付も発想を自由にして、ときにバレエ的であったりダンス的であったりと、それぞれの個性を生かした踊りにしようと考えました。日本舞踊家たちの公演であり、どれだけ踊れる人が、どれだけ汗をかき、どれだけ踊っているか。そのエネルギーでありパワーを感じていただけたらと思っています。
客席では見えない映像の魅力
◆7月1日よりLINE LIVE-VIEWINGで『夢追う子』が配信されます。映像で観る公演の醍醐味、生の舞台とはまた違った魅力はどんなところにあると感じますか?
松本:日本舞踊を配信で観るというのは新たな第一歩だと感じています。生の舞台で感じる熱量というのはもちろんあるけれど、今回は配信のためにいろいろな角度から撮影を行い、それこそ客席からは決して観ることのできないものもご覧いただけるようになっています。クローズアップされることで心の躍動感が作品にあらわれ、それもまた映像でなければ感じることのできないものでしょう。舞台を撮影した作品ではありますが、映像作品としての『夢追う子』が誕生したと考えています。
◆ここは絶対に見てほしい!というポイント、見所をご紹介ください。
松本:全編群舞の日本舞踊作品は未来座の公演では初めてであり、そこは見所の一つになっています。ただ群舞ではあるけれど、全てを一つの色にまとめ上げるということではなく、個々が主役であり、一人一人の個性を生かしていきました。『夢追う子』という共通言語はあるけれど、個性の違うそれぞれの個が集まり作品になっている。表情がよく見えるのも映像作品ならではの魅力であり、個々の個性やキャラクターをぜひ映像でじっくりご覧いただけたらと思います。
- 配信情報
第4回 日本舞踊 未来座=祭(SAI)=『夢追う子』
【チケット販売期間】6月25日(金)8:00~7月20日(火)18:00
【視聴可能期間】7月1日(木)20:00~7月20日(火)20:00
【視聴詳細】
①LINE LIVE-VIEWINGサイト
②LINE TICKETサイト
- 公演内容
2017年に結成された日本舞踊 未来座=SAI=。“SAI”とは“Succession And Innovation”の略であり、継承と革新の意味。そこに込めたのは、「日本舞踊の伝統をつなぎながら“いま”こそ輝き、そして“未来”へと光を放つ公演でありたい」という願い。2017年の第1回公演“水”、2018年の第2回公演“裁”、2019年の第3回公演“彩”に続き、2021年の第4回公演で掲げたテーマは“祭”。祭とは神に捧げる舞であり、舞うとは魂を込めて体を動かす姿。修練を経て互いに競いながら、分かち合いながら強い心を養い、その支えに“夢を持つ”——。舞台には構成・演出を手がけた松本幸四郎を筆頭に、“夢追う”総勢47名の舞踊家が集結。LINELIVE-VIEWINGを通し、“夢”を抱く日本舞踊家たちによる圧巻の舞を披露する。
【構成・演出】松本幸四郎
【出演】松本幸四郎、泉秀彩霞、岩井寛絵、尾上博美、尾上紫、勝見嘉之、中村光都靖、西川一右、西川扇里治、西川扇重郎、花ノ本寿、花柳曄小菊、花柳喜衛文華、花柳邦秀雅、花柳秀衛、花柳寿之真瑠、花柳輔悠奈、花柳寿々彦、花柳寿万籠、花柳寿美柚里、花柳摂月華、花柳雅あやめ、花柳真珠李、花柳基はるな、坂東扇弘、坂東信兎音、藤蔭里燕、藤間勘楚恵、藤間晃妃、藤間皓也、藤間翔央、藤間笙三郎、藤間扇里、藤間涼太朗、松島昇子、松本幸雅、松本幸凜、水木紅耶、水木都亜歌、水木佑阿、吉村輝洸、若見匠祐助、若柳杏子、若柳弥天、若柳佑輝子、若柳勒彩(※50音順)
【振付】水木佑歌、西川大樹、若柳里次朗、花柳大日翠
【音楽】仙波清彦
【テーマ曲作曲】久米大作
【脚本】鈴木英一