「暮しの手帖」元編集長の松浦弥太郎が贈る
世界5か国・6都市の早朝と深夜の景色

場所はいつも旅先だった
場所はいつも旅先だった
©Mercury Inspired Films LLP

 
この映画は、文筆家・書店オーナー・「暮しの手帖」元編集長など様々な肩書きを持つ松浦弥太郎が初めて監督した劇場用映画だ。監督自身が2011年に著した旅にまつわる自伝的エッセイ集「場所はいつも旅先だった」と同名のタイトルながら、内容は映画オリジナルで、松浦が世界5カ国・6 都市を自ら旅して、1本のドキュメンタリー映画としてまとめあげている。
ロケ地に選んだのは、サンフランシスコ(アメリカ)、シギリア(スリランカ)、マルセイユ(フランス)、メルボルン(オーストラリア)、台北・台南(台湾)。いずれも「現地の人々の日常の営みを感じられる」からと、撮影は主に早朝と深夜に行い、そこで起こる出会いとかけがえのない日々を、飾らない言葉で一つひとつ綴るエッセイ集のような映画だ。
朗読で参加したのは脚本家・演出家の小林賢太郎。主題歌にはアン・サリーによる「あたらしい朝」が使用されている。

古い映画のような白黒映像で本編は始まる。そして映し出される各国の早朝と真夜中の風景と共に、旅が開始される。カメラに映し出される異国の風景は、新鮮なようでどこか親近感を覚える。日が昇り始めた街に漂う凛とした空気と、闇の中に息づく重たくも開放的な夜の雰囲気は、世界共通のものなのだとじんわり心に伝わってきた。カメラ越しに向けられる人々の笑顔は優しく温かい。まるでそれが、日本に居る自分へと向けられているかのように。

人々の営みの中で、切っても切れないものは食事だ。この映画は食事や料理のシーンが非常に多い。目玉焼き、カレー、茶わん蒸し、ムール貝、お酒…。特に、夜に紹介される24時間営業のドーナツ屋のシーンでは、思わず生唾を飲み込んでしまった。真夜中に食べるドーナツは、いったいどれだけ美味しいのだろう。

小林賢太郎の穏やかで心に染み込むような朗読に耳を傾けながら、最後は主題歌「あたらしい朝」を歌うアン・サリーの歌声と共に日常を切り取ったワンシーンがいくつも流れていく。落ち着かない日々が続く中、この映画を見て世界を旅した気分に浸るのもいいだろう。

コメント

◇松浦弥太郎(監督)
「ただいま」と言うと、
「どうだった? 旅」と聞かれる。
「うん、よかったよ」と答えるけれど、
何がよかったのかを話すのはむずかしい。
家族や友に、あの日あのときあの場所のひとときを話したいけれど、
よかったこととは、目の前で起きたことではなく、
僕の心のなかで起きた、静かな安らぎや、ほんのささやかな喜び、
やわらかくしなやかな気分とか、
そして、すべてへの感謝といういのちの灯火、
心地よい風に包まれたほんとうの自由、というような。
僕の旅は、そういうなんと言ったらよいか、
予定をつくらず、ただちがった街へゆく、
何をしにでもなく、何のためでもない、
ちがった街のちがった一日のなかにいるだけのしあわせ。
忘れていたひとりの自分に出会うために歩く、
まるで「針のない時計」のような旅だと思う。
そんな旅を伝えたくて、いつものように文章や言葉ではなく、
映画という、僕にとって新しい手段で作ってみようと思いました。
あなたと一緒に歩いているかのように。
旅の終わりの早朝、
その街のいちばん高いところへゆき、
遠くかなたにいるあなたへ大きく手を振る僕なのです。

◇小林賢太郎(朗読)
こんなふうに世界を旅すれば、不安や怖さを感じることもあるはず。けれどこの映画には、常に変わらない安心感がある。それはきっと、松浦監督の視点の軸が、自分じゃなくて相手にあるからだと思った。この安心感をそのまま観る人に手渡す。そんな気持ちで、声を添えさせてもらいました。

◇アン・サリー(主題歌)
予定を決めず気の向くまま流れに身を任せる旅。
大人の身動き取りづらさに加え、さらにコロナの世界になったことで、
自由に旅することは夢のようにさえ想える。
そんな今だから一層、かつての松浦さんの美しい旅の日々、
早朝と深夜の街歩きを追体験すると、
その情景と紡がれる言葉は深く胸に響いてくる。
もうコロナ以前の世界に戻ることはないのではないかと、
振り返れば無邪気だった日常への胸の疼きもどこかにある。
でも映画の最後、夜明けの場面と共に「あたらしい朝」が流れたとき、
信じられる気がした。
今、この瞬間にもあの旅する日々は地続きで続いているのだと。

 
『場所はいつも旅先だった』は10月29日(金)より渋谷ホワイトシネクイントほか全国順次公開。

映画情報
場所はいつも旅先だった
©Mercury Inspired Films LLP

 
監督:松浦弥太郎
朗読:小林賢太郎
主題歌:アン・サリー「あたらしい朝」
監督補:山若マサヤ
制作進行:門嶋博文
撮影:七咲友梨
録音:丹雄二
編集:内田俊太郎
デザイン:澁谷萌夏
プロデューサー:石原弘之
配給:ポルトレ

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