「近代日本経済の父」と呼ばれる渋沢栄一(吉沢亮)の父・渋沢市郎右衛門を演じる小林薫さんと、栄一に学問や剣術を教えた従兄・尾高惇忠を演じる田辺誠一さん。これまで、市郎右衛門は、四角四面で厳格でありながら、破天荒な栄一の生き方を誰よりも支援。惇忠は早くから水戸学に傾倒し、栄一に大きな影響を与えてきました。そんな優しくも厳しく栄一に接してきた二人を演じる小林さんと田辺さんが役への思いと、吉沢亮さんの印象を語りました。
小林「市郎右衛門自身もどこか時代が大きく動き出したのを感じ取ったように思います」
――栄一の父・市郎右衛門をどのような人物として捉えていますか?
実は市郎右衛門もかなり熱い人だという気はしています。「みんなが豊かになることが幸せなんだ」という考えを語るシーンがありましたが、そういった思いを持ち合わせた熱い人なのだと思います。また、市郎右衛門は厳しい一面も確かにあるのですが、一方ですごく愛情豊かというか、深いところで栄一のことをすごく愛しているのだと思います。
――栄一を演じる吉沢亮さんの印象を教えてください。
見ていて、良い“気”が流れている方だと思いました。『青天を衝け』で描かれるのは時代の転換期ですが、吉沢さんは、「この人が時代を変えていくんだ!」と思わせる“気”を持っている方ではないでしょうか。古い考え方に属していると役柄と芝居が一致しないところがどこか出てくるものですが、一緒に演じていくうちに吉沢さんからは不思議とそういった大きな時代の変わり目を演じる新世代の“気”を感じるんです。もちろん吉沢さんは多彩な演技力もお持ちですが、それだけではないバッと見たときの“勢い”や “雰囲気”を持ち合わせているような印象を抱きました。
――今後、いよいよ栄一が本格的に旅立つことになりますが、市郎右衛門としてはどのような気持ちなのでしょうか。
栄一に対して、「お前にはお前の人生がある」 と思っている節が市郎右衛門にはあります。当時は“家”を中心に物事が考えられていたと思いますし、そこからはみ出ようとするならば「百姓の分でとんでもないことだ」と止められる時代だったと思います。そういった時代に「攘夷の志士になる」と言う栄一を止めるのではなく、信頼して江戸や京都へ送り出しているのをみると、とても見事な人だと思います。 栄一は時代がざわついているのを敏感に感じ取って旅立っていきますが、一方で市郎右衛門自身もどこか時代が大きく動き出したのを感じ取ったように思います。栄一の思いに対して非常に理解があった人物であったのはもちろん、それだけではなく、時代の機微みたいなものを市郎右衛門も感じていたような気がします。
田辺「ガッチリとした上下関係ではなく、同じ目線で成長して行ければと思っています」
――栄一に大きな影響を与えた尾高惇忠をどのような人物と捉えていますか?
実際にロケに行って感じたことですが、血洗島の大地や土を触っている強さなど、当時の過酷さも含めて、そこから惇忠の思想や生き方が生まれたのかなと思いました。また、惇忠は栄一たちより10歳ぐらい年上なので、みんなの面倒を見る「兄い」としての立場だけではなく、剣術や学問の「先生」という側面があります。僕の祖父も教師と農業を兼業していたので、惇忠と栄一の関係性に似たようなところを感じています。ただ、惇忠はたまたま早く生まれて「兄い」や「先生」という立場にありますが、例えば剣術の腕前は長七郎(満島真之介)に追い抜かされたりしているんです。それはそれで教える立場としては嬉しいですし、喜びでもあるので、あまりガッチリとした上下関係ではなく、同じ目線で成長して行ければと思っています。
――吉沢亮さん演じる栄一の印象は?
吉沢さんが演じる栄一は非常にクレバーで合理的な考え方の持ち主ですが、かといって血が通っていないわけではなく、義理人情に厚い部分もあって、すごく人間的だと思います。その上でみんなが幸せになるために行動したり、不条理に対して「違う」と思ったらそれを表に出せるというのはすごいなと思います。吉沢さんのことは都会的で洗練されたイメージを持っていましたが、いざ実際に共演してみると実は土くさいというか男くさいというか、しっかりと地に足がついている印象を受けました。これは最初にお芝居をした時から今でも変わってないです。それに僕が知らなかったシーンを後から放送で見ると、はつらつとしていて、すごく頼もしいです。
――印象的なシーンはありますか?
第7回に、「千代(橋本愛)が好きだ」という喜作(高良健吾)に対して栄一が、「千代はやめておけ」と言うシーンがありました。栄一は自分が千代を好きだという本心を悟られないように喜作を止めようとするのですが、惇忠は横で2人のことをじっと見ているんです。栄一の気持ちを知らない惇忠からすると、「妹のことを心配して守ってくれているのかな」みたいな感じだと思いますが、その時の吉沢さんの芝居がすごくおもしろくて。喜作をけん制するかのような主張をしたかと思えば、それが効かないとなるとへこみながら次の手を打ったり、つい感情が表に出てしまい好意がバレそうになったり。さらに相手の表情や、ちょっとした言葉尻でうろたえたりマウンティングを仕掛けたりと、毎回違う手法でヒートアップとアップダウンを表現していて、吉沢さんの役者としての引き出しがすごいと思いました。演じている吉沢さんもかわいかったです(笑)。
――では最後に、演じる時に大事にしていることを教えてください。
後に惇忠は富岡製糸場の工場長になりますが、自分の娘をはじめとして女性を積極的に活用したりと、比較的フラットなものの見方ができる人だと思います。ですから、栄一や喜作たちに対してもあまり上からものを言う感じにはならないように意識しています。あとは、尊王攘夷などの思想があまり過激にとられないよう、惇忠が感情的に見られないように冷静に演じたいと思います。