映画『廃用身』
(C)映画 『廃用身』5月TOHOシネマズ 日比谷ほか全国公開 ©2025 N.R.E.

 

この度、幕を開けたばかりの映画『廃用身』のスペシャルトークショーが、22日に東京渋谷・ユーロスペースにて開催。

 
監督を務めた吉田光希、特別ゲストとして吉田恵輔、MCに映画評論家・森直人が登壇し、映画制作の裏側から作品テーマまで、多岐にわたるトークを繰り広げた。

 

主演は、幅広い役柄をこなす変幻自在な演技力で、圧倒的な存在感を放つ実力派俳優染谷将太。医療の限界を超えたいと力強く訴え、理想を追い求めるあまり、合理性と狂気の危うい狭間へと踏み込んでいく主人公、医師・漆原糾(うるしはら・ただす)を怪演。
 

共演には、老齢期医療に革命を起こす可能性を感じ取り、漆原に本の出版を持ちかける編集者・矢倉俊太郎を、主演映画『逆火』(25)や主演ドラマ「小さい頃は、神様がいて」(25/CX)、連続テレビ小説「おむすび」(25/NHK)など話題作への出演がつづく北村有起哉。両脚と左腕の麻痺に苦しめられ、漆原の〈画期的な治療〉で人生を取り戻した岩上武一に、映画『首』(23)や大河ドラマ「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~」(25/NHK)の出演など、名バイプレイヤーとして活躍する個性派俳優の六平直政。漆原を支える妻の漆原菊子に、『由宇子の天秤』(21)で注目され、『敵』(25)『宝島』(25)『国宝』(25)など幅広く活躍する瀧内公美。その他、廣末哲万、中村映里子、中井友望、吉岡睦雄らが脇を固める。
 

原作は外務省医務官を経て、現在も在宅訪問医として活躍する久坂部羊の小説デビュー作「廃用身」(幻冬舎文庫)。出版当時、そのあまりに強烈な設定から、「映像化、絶対不可能!」と世間で話題を呼んだ。
監督と脚本を務めるのは吉田光希。東京造形大学在学中より諏訪敦彦に師事し、塚本晋也作品での現場経験を経て、『家族X』(10)、『三つの光』(17)でベルリン国際映画祭をはじめとした多数の国際映画祭での評価を通じ、世界で注目を集めてきた。本作は、そんな𠮷田が学生時代に原作と出会って衝撃を受けて以来、20年にわたり温め続けてきた、渾身企画の映画化となる。
 

冒頭、森から「今日は“吉田たち”ということで……」と紹介されると、会場はさっそく笑いに包まれる。実は2人とも、いわゆる“土吉田”の「𠮷田」姓。しかも、塚本晋也監督作品の現場を経験した“塚本組”の先輩後輩という関係性でもある。
 

吉田恵輔監督は、吉田光希監督との最初の出会いを「僕、面接してるんですよ」と回想。『六月の蛇』のスタッフ追加募集に応募してきたのが、当時まだ浪人生の吉田光希監督だったという。小学校の校庭で行われたという“実験”的な面接を振り返りながら「良い動きをしてたんで、“お願いします”って(スタッフに加わってもらった)」と当時を懐かしそうに語った。
 

一方の吉田光希監督も、「大ファンだった塚本監督の現場に行けるチャンスだと思って応募した」と振り返り、映画制作の原点となった経験を明かす。
 

そんな“塚本組”の現場を経て、現在ではそれぞれ監督として活躍する2人。森から、両監督作品を撮影監督・志田貴之が支えていることや、スタッフ陣に共通点が多いことに触れられると、吉田恵輔監督は「エンドクレジットを見ると、スタッフほぼ一緒なんだよね」とコメント。映画作りの現場で繋がり続けてきた関係性が垣間見える一幕となった。
 

トークは次第に『廃用身』の演出論へ。吉田恵輔監督は本作について「テーマ的には“よっしー(※吉田光希監督のあだ名)っぽい”と思った」と語りつつ、「今回は撮り方が今までと全然違う」と指摘。特に印象に残ったものとして、ズームやトラックインを多用したカメラワークを挙げ「ずっと何か起きそうな予感がする」と、その“不穏さ”について分析する。
 

これに対し、吉田光希監督は「欠損描写を“インパクト”として見せたくなかった」と説明。身体の損傷をカット割でショッキングに切り取るのではなく、観客が少し距離を取りながら考え続けられるような映像を目指したという。
 

また、染谷将太演じる主人公・漆原についての話題では、“善意”をどう描くかというテーマへ。吉田光希監督は、原作の久坂部羊先生や主演の染谷将太とも「漆原をサイコパスとしては描かない」という認識を共有していたと明かす。「究極の善意の行き着く先」として人物像を構築していたと語り、「本当に患者のことを思っている人として演じてもらった」と振り返った。
 

一方で吉田恵輔監督は「思い込みの強い人間」として漆原を捉えていたとコメント。「本人は正しいと思ってやっている。でも、その強さが危うさにも繋がる」と語り、“善意と狂気は紙一重”という本作のテーマ性にも触れた。
 

さらに話題は、介護や医療、高齢化社会の問題へと発展。吉田恵輔監督は「これは本当に他人事じゃない映画」と切り出し、「親世代を含め、いつか必ず向き合う問題」と語る。そして「答えを提示する映画ではなく、“自分はどう考えるのか”と向き合うきっかけになる作品」と、本作の存在意義について言及した。
 

吉田光希監督もまた、原作者で現役医師でもある久坂部先生とのやり取りを紹介。自身の親に置き換えて考え「(切断は)躊躇する」と言った吉田光希監督に対し、久坂部先生は「麻痺の苦しさを知らないから、そう言えるんですよ」と言ったというエピソードを明かし、“当事者性”によって見え方が大きく変わる題材であることを語った。
 

その後、吉田恵輔監督から印象的なラストシーンについて質問が寄せられる場面も。吉田光希監督は、原作ではフェイクドキュメント的な構成になっていることを説明しつつ、映画版ラストについて「“回復した姿”を直接見せるのではなく、“回復の予感”を描きたかった」と演出意図を語る。
 

ラストシーンで風に揺れる洗濯物や、かすかに聞こえるとある声について「場所によって聞こえ方が変わるように音を配置した」とこだわりを明かし、「ぜひ映画館の音響とスクリーンで観てほしい」と呼びかけた。
 

そんな真剣な映画論が続く一方で、終盤には“師弟感”あふれる場面も。吉田恵輔監督は「昔、よっしーに“こういうイベントでこなれた感じで喋る人って寒いですよね”と言われたのを今でも覚えてる」と暴露。これに会場が笑いに包まれるなか「今日は“こなれた側”にならないよう気を付けてた」と続け、「よっしーはこなれたように喋っていたけどね?」と指摘すると、吉田光希監督は照れ笑いを浮かべていた。
 

最後に吉田恵輔監督は「これからもっと身近になっていく問題だと思う」と改めて作品テーマに触れ、「ぜひ周りの人にも薦めてほしい」とコメント。そして吉田光希監督は「いろんな感想が届いている」とSNSやレビューサイトでの反響に感謝を述べつつ、「長文の感想が多いのが本当にうれしい」と語る。賛否両論の渦を巻き起こしている感想に対して、「ポジティブでもネガティブでも、熱量を持って感想を書いてもらえること自体がありがたい」と観客へ感謝を伝え、トークショーを締めくくった。
 

STORY
ある町のデイケア「異人坂クリニック」に通うお年寄りの間で、漆原院長(染谷将太)が考案した“画期的な”治療が密かに広まっている。究極のコスパの良い介護を目指すその医療行為は、<廃用身」>(麻痺などにより、回復見込みがない手足のこと)をめぐる、従来の常識を覆すものだという。その結果、「身体も心も軽くなった」、「厳しい性格が柔らかくなった」などと予想外の“好ましい副作用”が現れたという。噂を聞きつけた編集者・矢倉は、老齢期医療に革命を起こす可能性を感じ取り、漆原に本の出版を持ちかける。しかしやがて、デイケアに関するとある内部告発が週刊誌に流出。さらに、患者宅で起きた衝撃の事件をきっかけに、すべてが暗転していくーー。

 

作品情報
映画『廃用身』

原作:久坂部羊『廃用身』(幻冬舎文庫)  監督・脚本:𠮷田光希 
出演:染谷将太 / 北村有起哉 瀧内公美 / 廣末哲万 中村映里子 中井友望 吉岡睦雄 / 六平直政
音楽:世武裕子
配給:アークエンタテインメント 
©2025 N.R.E.
公式サイト
公式 X @Haiyoshin_movie

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