日本人キャストが古代ギリシャの人々を演じた映画「テルマエ・ロマエ」シリーズ、さらに2019年を代表する大ヒット映画「翔んで埼玉」。この両作に関わったスタッフが手がけていることで話題の連ドラ、木曜劇場「ルパンの娘」。泥棒一家の娘・華(深田恭子)と警察一家の息子・和馬(瀬戸康史)の恋の行方が、コミカルな展開の中で描かれている。 次から次に投入される“小ネタ”にSNS上でツッコミが入り、注目度の増す本作の脚本を担当する徳永友一に、脚本執筆の裏側、さらにコメディーに対する思いを聞いた。
「放送の度、“ツッコミ待ち”している自分がいます(笑)」
Q. 突然、ミュージカルシーンが始まったり、大ヒットスパイ映画を彷彿させる場面が登場したり。アイディアはどこから湧いてくるのでしょうか?
「例えば第2話で、敵陣に乗り込んだ華たちが暗幕を使う場面が登場しました。あのシーンも元ネタは映画『ミッション:インポッシブル』です。侵入してからどうしようか考えているうち、『ミッション:インポッシブル』のことが頭に浮かんだんです。何の説明もなく同じようなことをやるのはただのオマージュになってしまうので、『こんな場面が映画にもあったわね』というセリフを入れて、敢えて「これはあの映画のあのシーンですよ」と物語上正直に言うことで笑いとして昇華すればと思って入れました。この作品は世界観が世界観だけにそれを逆手に取ることでより笑いが起きるのではないかと(笑)」
Q. では、唐突なミュージカルシーンはどのように誕生したのでしょうか? 第2話から、第1話にはなかった字幕まで入り、大笑いしてしまいました(笑)。
「華の幼馴染で、これまた大泥棒の円城寺を最初は“おもしろキャラ”として考えたんですが、大貫勇輔さんが演じてくれると決まり、彼はダンサーでもあるし、ミュージカル俳優としても活躍しています。『翔んで埼玉』でも組んだ武内英樹監督から、華と円城寺のやりとりをミュージカル風にしてはどうかという案が出て、それを膨らませました。 ミュージカルといっても、実は華の気持ちを音楽に合わせて円城寺が語っているだけです。視聴者の皆さんに華の気持ちを説明できるし、歌詞は華の感情をメロディーに合わせたとき、届きやすい言葉を考えています」
Q. 華の気持ちを彼女自身でなく、円城寺が代弁している時点でおかしいですね(笑)。そもそも徳永さんが「ルパンの娘」の脚本を手がけることになった経緯は?
「昨年、同じ枠で山﨑賢人さん主演の『グッドドクター』の脚本を書いてあとぐらいに、『ルパンの娘』の稲葉直人プロデューサーから電話がかかってきたんです。『面白い原作があり、連ドラにしようと思っているんだけれど』と。原作はミステリー要素が強くて、原作通りのテイストで1クールの連ドラにするのはいろいろ難しいので、連ドラ版をどういった作品にするか、一からスタッフとして加わってほしい、と声がかかったんです。それで今年の2月ぐらいから、本格的にキャラクター作りを始めました」
Q. 原作を読んでの感想は?
「このままのテイストで映像化するのもいいなと思うほど、おもしろかったです。ただ、1話完結にしたほうが見やすいし、そこにいま世間で起きている事件を挿入すれば、よりいまどきの作品になると思いました。当然、原作の良さも生かしたいので、それは伏線を張りつつ後半に持っていくことにしたんです」
Q. 本作にスタッフとして加わったのが今年の2月とのこと。徳永さんが脚本を手がけた『翔んで埼玉』が公開されたのも、同じ時期ですね。『ルパンの娘』の脚本を書く際、『翔んで埼玉』のことは意識されましたか?
「『翔んで埼玉』のことはかなり意識しましたね。僕自身も何度も映画館に行ったんですけど、超満員のお客さんたちがいろいろな場面で爆笑していたんです。皆さんの反応を見るにつけ、勉強になりました。『このシーンで、こんなに笑ってくれるんだ』、『この展開はこんなふうにウケるんだ』、『こんな小ネタをおもしろがってくれるんだ』と。皆さんが喜んでくれるのがうれしくて、映画館に行くたび感動していました。そのとき、同時にこんな風に楽しんでもられるものをテレビドラマでも届けたい、と思ったんです。『ルパンの娘』は武内監督がメインで演出を担当すると聞き、武内監督ならどんな球でも受け止めてもらえると、ブレーキをかけることなく振り切ったものを書こうと思ったんです」
Q. 放送が始まるや、SNS上で大いに盛り上がっていますね。
「それも『翔んで埼玉』と同じでした。上映が進めば進むほど、映画を見た人がいろんなことをTwitterなどでツッコンでくれたんです。『あ、ここを気がついたくれた!』とうれしくなりましたし、『ルパンの娘』も同様で、予想以上のツッコミがあって(笑)。いろいろ小ネタを仕込んでよかったです」
Q. 『翔んで埼玉』のヒットで、“コメディーの旗手”と言われることも多くなったのでは?
「それは単純にうれしく思っています。人を笑わせるって一番難しいですから。コメディーをちゃんと作ることのできるスタッフってそんなにいないと思うんです。その中で『翔んで埼玉』にしろ、『ルパンの娘』にしろ、コメディー作品を作るスタッフの一員になれたことが光栄ですね。成功したのは力のあるスタッフ・キャストが集結したから。“総合力”なんです」
Q. やっとここまでたどり着いたというお気持ちですか? それとも今回の成功は通過点ですか?
「まだまだ通過点だと思っています。コントや漫才でなく、ドラマでできる笑いの種類がもっとあるはずなので。自分なりにいま求められる笑いというものが、掴めているつもりではあります。テレビを見ている皆さんがツッコミながら、日頃の疲れを忘れて頭を空っぽにしながら気軽に観られるものではないかと。『ルパンの娘』でも見ている人がツッコミしやすくて、さらに違和感あるワードのチョイスにはこだわっています。それも本当に『翔んで埼玉』で学び、肌感覚で掴めたんですけど、あの作品の成功体験のおかげで、放送のたび “ツッコミ待ち”みたいな状況になっています。『皆さん、どうぞツッコんで下さい』と(笑)」
Q. 主演を務める深田恭子さんの印象をお聞かせください。
「深田さんは一言で言えば“ファンタジー”。このトンデモない世界観が、深田さんが中央にいてくれるだけで成立してしまう。深田恭子という女優がいることで説得力が倍増するなんて、すごいことですよ。さらにアクションも相当努力されて、非常に頑張っています。素晴らしい女優さんですね」
Q. 華の潤んだ瞳を見ているだけで、引き込まれます。
「佇まいで成立させてしまうので、すごいな、と。深田さんは人間性も素晴らしくて、気配り上手だし、座長としてスタッフキャストのみんなを盛り上げ、支えてくれています。デビューからずっと第一線で活躍されている理由がわかりました」
Q. 深田さんを見ていると、「こんなことをやってほしい」というアイディアが浮かんでくるのではないでしょうか?
「その通りです。『このセリフ、セーフ? いやアウト?』というものもぶつけても、ちゃんと跳ね返してくれる人なので感服しています。瀬戸康史くんとのコンビネーションも抜群にいいですよね」
Q. 瀬戸さんは徳永さんからご覧になってどんな俳優ですか?
「瀬戸くんは何度も他作品でご一緒しているので、信頼を寄せる俳優の一人です。安心してどんなボールでも投げられるし、深田さん同様にそれをちゃんと返してくれる人です。誠実な瀬戸くんと、ファンタジー感満載の深田さん。良いボールを投げ合って、良い化学反応が起きているのではないのか、と思っています」
Q. 「ルパンの娘」は共演者の皆さんも「よくぞこれほど」と思うほど“濃い”方ばかりですね(笑)。
「作品の世界観を表現するためのキャスティングという意味では、これまた『翔んで埼玉』がいい成功体験となりました。制作者側が頭に浮かんだ「この人なら見える!」と思う役者さんに演じて頂くこと。それこそが何より大事であると思います。視聴者の皆さんも、しっかりとした世界観や、しっかりとしたお芝居を見ることを求めているのではないか、という気がしています。主演級の役者さんをたくさん揃えたからと言っても、豪華にはなりますが、それが面白い作品にはならないと思っています」
Q. 小沢真珠さんとマルシアさんの母親対決もおもしろいです。
「お二人とも最高ですよね(笑)。小沢さんは『翔んで埼玉』でもご一緒しましたが、あの目力! 華の母親・悦子の“トンデモ設定”を考えたとき、説得力を持たせられるのは小沢さんしかいないと武内監督らと意見が一致しました。 一方、マルシアさんは、プロデューサー、監督と話している中で、和馬の堅物の母親・美佐子を演じてもらったら面白いのではないのか?となりました。マルシアさんはドラマこそあまり出ていませんが、それが逆に手垢がついてなく面白いそうでありましたし、舞台で活躍されていて、演技力は保証付きです。さらに歌唱力もピカイチ。どうにかミュージカルシーンに登場させられないか、と思案しているとことです(笑)。 今回は実力派の役者さんに揃っていただきましたが、小沢真珠さん、マルシアさん、どんぐりさん、麿赤児さん、藤岡弘、さんとキャストクレジットが流れただけで、何だか楽しくなりませんか? “キャストクレジット”が流れても他で観たことがなく笑えると思いました(笑)」
Q. 今後のドラマの見どころは?
「序盤はラブコメ色が強くて、警察一家と泥棒一家、バレそうでバレない展開を笑いの要素を散りばめて話が進みました。中盤からは岸井ゆきのさんら新キャクターも登場して、ラブ要素が濃くなります。さらに後半は原作の持ち味を生かし、ラブミステリーに変換していきます。もちろん笑いは忘れませんし(笑)、ハラハラドキドキが満載です。話がダイナミックに変わっていく連ドラの醍醐味を味わっていただけると思います。『あ、バカバカしいだけのドラマじゃないんだ』と(笑)」
Q. 今後も予想外なことがいろいろ起きる予感がします。ところでこのチームで何かトライしたいことはありますか?
「贅沢を言えるなら、『ルパンの娘』を映画に昇華させたいですね。いまも限られた予算の中で、いろいろなことにこだわっていますが、ドラマでは中々できない映画の予算ならではの大きなことをやりたいです。たとえば、華たちの家は味のある一軒家と、実際に住んでいる超高層マンションが不思議なトンネルで繋がっている設定で、一軒家の畳がポンッと開き、そこに飛び込むとなぜかマンションの高層階にたどり着きます。どういうルートになっているのかぜひ映画で描きたい。武内監督とも『トンネルの中の描写は映画で』と冗談交じりに話しています(笑)」
Q. 「ルパンの娘」を見ていると、心の底から笑えます。いま、何かというと“炎上”と言われる世の中で、心の潤いが求められている気がします。
「それは僕も感じています。『この人たち、アホだなー』でいいんですよね。それで、日頃の疲れやストレスをほんの一瞬でも忘れることが出来たり、バカだなと笑い飛ばすことで『焦らなくていいんだ』、『今の自分でもいいんだ』と思ってもらえたら、こういう作品を作っていることの意義がある気がします。 これからも“無邪気な笑い”にこだわりたいですし、夏のドラマって子供たちが多少夜更かしをしても大丈夫だと思うんです。『ルパンの娘』を子供たちが楽しんでくれたらうれしいですね」
- 番組情報
- タイトル
木曜劇場「ルパンの娘」
放送日時
フジテレビ 毎週木曜 22:00~
あらすじ
華の家、三雲家は代々、泥棒を生業とする一族。世間では大泥棒ルパンの頭文字を取り、三雲家を“Lの一族”と呼んでいた。華は悪者からしか盗みを行わず、盗んだものを世間の弱者に還元しているとはいえ、泥棒家業を嫌悪していた。ある日、華は恋人の和馬が刑事で、彼の実家が警察一家と知らされる。ロミオとジュリエットのような状況の中で華は、泥棒修行で得たテクニックを使い、正体を明かさぬまま捜査中にピンチに陥った和馬を助けるように。一方、和馬はLの一族を追ううち、華にある疑念を抱くようになっていく。
出演者
深田恭子、瀬戸康史、小沢真珠、栗原類、どんぐり、藤岡弘、、加藤諒、大貫勇輔、信太昌之、マルシア、麿赤児、渡部篤郎
監督
武内英樹、品田俊介、洞功二
脚本
徳永友一
・木曜劇場「ルパンの娘」(番組公式ページ)
- この記事を書いた人
- ウィルメディア編集部
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