『逃げるは恥だが役に立つ』や『アンナチュラル』といったヒット作を手がけ、次回作が待たれていた脚本家の野木亜紀子さん。待望の新作『コタキ兄弟と四苦八苦』がいよいよスタートする。不器用なコタキ(古滝)兄弟、一路(古舘寛治さん)と二路(滝藤賢一さん)の愛すべき物語は、深夜枠ながら『勇者ヨシヒコ』や『孤独のグルメ』といった人気シリーズを数々生み出してきたテレビ東京系「ドラマ24」での放送。野木さんにとっても挑戦に満ちた本作について話を聞いた。
 
Q.この作品が発表されて、どんな反響がありましたか?
ツイッターをやっているので、そこでの反響が結構ありました。テレ東の深夜ドラマ枠を楽しみにしている方も多いですよね。個性派俳優の古舘さんと滝藤さんが主演というのも、楽しみにしてくれているようです。
Q.この作品は古舘さんが野木さんに直接、脚本執筆をお願いしたとか。どういう経緯だったのか改めて教えてください。
古舘さんとは何度か飲んだことがあって、ある日、「僕と滝藤くんのW主演のドラマをテレ東で書いてくれませんか」という3行ぐらいのメールが届いたんです。「何? 楽しそうだね」と返事をしたら、今度は「テレ東の濱谷プロデューサーを紹介します」とメールが来ました。
Q.何も決まってないのに、古舘さんの中でテレビ東京っていうのは、決定事項だったんですね(笑)。
古舘さんが気軽にお願いできるプロデューサーが、濱谷さんしかいなかったようです(笑)。私も以前からテレビ東京でドラマを書いてみたかったので、「いいね!」というノリでしたね。
Q.そんなラフな感じで始まった話が、成立するものなんですね。
ホントですよね(笑)。もともと2018年の年頭ぐらいには、企画として通っていたんです。ただ、いつ頃の放送にしましょうか、という段階で、古舘さんからめずらしく深刻な調子で「実は大きな仕事が入って、コタキの時期をずらせないか」とメールが来て。聞いたらNHKの大河ドラマ『いだてん』だという。私自身、『いだてん』が発表になった時からすごく楽しみにしていたので、「クドカン(宮藤官九郎)さんのドラマなら、絶対に出た方がいいよ!こっちは先送りでいいよ!」と言ったんです。私も18年は連ドラの『獣になれない私たち』や前後編ドラマ『フェイクニュース』など、執筆しなければいけないものがあったので、『コタキ兄弟』が延期になって、実はかなり助かりました。
Q.本作は四苦八苦の“苦”がキーワードになっています。なぜこの文字に着目したのでしょうか?
最初の段階で、兄弟を「レンタルおやじ」にしようと濱谷さんと決めてあって、それに合わせたタイトルをいくつか考えたりもしたんですが、ぴんとこなくて。なんとなく四字熟語がいいんじゃないかと思って、いい言葉はないかなと探していたら、四苦八苦が目につきました。もともと仏教の言葉で、四苦と四苦の計八苦で“四苦八苦”なんです。「生苦」、「老苦」、「病苦」、「死苦」、「愛別離苦」、「怨憎会苦」、「求不得苦」、「五蘊盛苦」という八苦はどれも本質的で人間的なので、一つずつやっていったら面白いんじゃないかと提案しました。でも全12話つくらないといけないので、八苦では足りない。サブタイトルに苦がつかない回もあっていいかなと思ったんですけど、全部を苦で統一した方がいいんじゃないかと言われて。そこで、現代ならではの「苦」を新しく作ろうということで、最後に苦がつく新たな四字熟語を四つ創作することになりました。仏教や国語の先生にも相談して、おかしくない形にして。それで全12苦。だから番組のタイトルロゴには四苦八苦の四苦と八苦の間にさりげなく+が入っているんです。

 
Q.脚本を書く上でご苦労や大変だったことは?
苦の順番決めですかね。書き始めは、最初はこの苦がいいな、2話目はちょっと派手な展開にしたいからこの苦で、次は…という感じで進めたところ、だんだん苦の選択肢が無くなってきまして。最終回は創作した苦ではなく、もともとある苦の中からこれというのを決めていたので、終盤をこの苦にしたいから、創作の苦をここに持ってきて、そうすると先にこの苦をやらないと全話の流れが成立しない…など悩んでしまって、一週間くらい原稿を待ってもらったことがありました。
Q.この作品が放送される「ドラマ24」は40分枠です。1時間のドラマを作るときと違いはありましたか?
正味30分だと1アイディアで展開できるので、気持ちの面で楽でした。1時間枠だと複合的にいろいろなことを仕掛けなくてはいけませんから。あとは深夜ドラマなので予算が少ないこともあり、1シチュエーションにせざるを得ない部分もあったりして。ずっと「喫茶シャバダバ」で展開するだけの回もあります。
Q.古舘さんと滝藤さんは台本を読み、お互い「古舘さんは一路そのもの」、「滝藤さんはまさに二路」と話していたと伺いました。野木さんからご覧になって、お二人はどんな方ですか?
当て書きはしてますが、役は役なので。へーそうなんだ、という感じですね(笑)。古舘さんは一路よりよく話すし、笑いを取りにいくところがあって、それがちゃんとおもしろい愉快な人です。こだわりが強いところは一路っぽいかな。あと、ご本人が四十肩だというのでそれを加えたりとか。
滝藤さん演じる二路は、いわゆるバカキャラ。古舘さんは今回、滝藤さんとがっつり一緒に時間を過ごして、「今まで思っていたよりも滝藤くんがバカなことがわかった!まさに二路だった!」と言うんです。滝藤さんは隣でそれをニコニコ聞きながら「俺、なーんも考えてないもん」とか笑ってるんですが、実は二路っていう人物は、人が悲しんでいる姿を見たくなくて、楽しませたくてバカなことをしちゃう人。滝藤さんも周りのことを見て、あえておどけているんじゃないか、という気がします。その辺の二人の関係性は、ドラマに近いかもなあと思います。

 
Q.当て書きができるのも、オリジナルの魅力でしょうか?
小説なり、コミックなり原作があってもキャストが決まっているなら、当て書きをしますよ。原作と演じる人のイメージがちょっと違うことはよくあるので。そういう場合、原作通りにやるとむしろ原作から離れてしまうことがあるんです。例えば原作のセリフをそのまま使ってしまうと、「この顔でこの年齢でこのセリフを言ったら、ちょっと違うニュアンスが出ちゃう」とか。そういうときは演じる人に合わせて少し変えたほうが、かえって原作に近づくこともあります。
Q.ところで、野木さんの作品は外れがないとよく言われます。そう評されることをどう受け止めていますか?
ありがたいですけど、すごくハードルが上がっているなぁと。前とは違うものを目指した作品でも、比較されますからね。そんなに毎回毎回、当たってたまるか!とも思うんですけど(笑)。正直、気にしてもしょうがないというか。こうしたらウケる、こうしたら当たる、みたいなことを考え出したら終わりだと思っているので、自分がおもしろいと思うものを作っていくしかないですね。
Q.オリジナル作品を書かれるとき、大切にされていることはありますか? 野木さんからのメッセージもより込められているのでしょうか?
オリジナルでも原作ものでもあまり変わりません。自由度が違うというだけで。先日、ドラマに出てくださる宮藤さんとも話したんですよ。「そもそもドラマってメッセージを届けなきゃいけないものだっけ?」と。もちろんそういうドラマもあるけれど、説教はしたくないなと。メッセージイコール説教ではないですけど、そればっかりを前面に出していくと、面白くなくなってしまう気がして。『コタキ兄弟』は深夜枠だし、オリジナルだし、気軽に楽しんでもらいつつ、何かしらちょっとでも心に残ればいいなと思っています。
Q.本作を全話撮った山下敦弘監督は映画『ハード・コア』、『リンダリンダ』などで知られています。野木さんは以前からお仕事をしたいと思っていたそうですね
山下監督がこれまで撮った作品が、全部好きなんですよ。嫌いなところがない。だから、好みが合いそうな気がしていたんです。こういう表現は恥ずかしいな、こういうのは嫌だなという感覚が共通しているんじゃないかと、一方的に(笑)。抑制的でやりすぎないところや空気感、役者の佇まいみたいなものを大事にしていると思ったし、女優さんをとても魅力的に映すんです。
今回は深夜で、演技派二人のダブル主演ということもあり、作り込んだドラマっぽさよりも芝居の空気を大事にする監督がいいんじゃないかと思って「山下監督がいいな」と言ったら、濱谷さんもファンだということで、お願いしたら実現しました。言ってみるものです(笑)。
オープニングもすごくいいんですよ。Creepy Nutsのオープニングテーマ『オトナ』もいいし、タイトルバックがいい! 踊るオヤジたちが無駄にかっこいいです(笑)。それに芳根(京子)ちゃんがめちゃくちゃ可愛くて。久々に「踊る可愛い女子」が来たぞ!と、“テレ東深夜ドラマを見る族”に芳根ちゃんを見て見て、と伝えたいです。
Q.改めて視聴者のみなさんに、どんなところを楽しんでもらいたいですか?
もともと古舘さんと滝藤さんの、「芝居をしたい」という思いを受けて、芝居場優先で書いた脚本です。ゲストの皆さんも芝居のしっかり出来る方ばかりです。キャスティングはみんなで「これ誰にする?」と盛り上がりながら、最高の役者さんに集まっていただきました。芝居の妙をたっぷり楽しんでいただきたいです。
Q.19年は野木さんの作品の放送がなかったので、毎週しっかり楽しみます。
ありがとうございます。脚本を書いているとき、予算の縛りはありましたがそれ以外は自由だったので、わりと好きに楽しんで書いてしまったのですが、その分、山下監督は時間もない中での全話演出で、とても大変だったと思います。クランクアップ後に、テレ東だし「ドラマ24」という枠なんだし、もうちょっとふざけて自由でも良かったかなと思い、山下監督にそう言ったら「え、これ以上!?」と言われたので、「すいませんでした」と謝りました(笑)。

 
Q.放送が始まったばかりですが、今後『コタキ兄弟』でやってみたいことはありますか?
全12苦、みんなで四苦八苦して作った後なので、やり切った感しかないですが、もしもやるなら『コタキ兄弟 in ハリウッド』じゃないですか(笑)。

ドラマ情報
ドラマ24「コタキ兄弟と四苦八苦」
「レンタルおやじ」を始めた無職のコタキ兄弟(古舘寛治、滝藤賢一)がとんでもない案件に“四苦八苦”しながらも、生きていく姿を描く人間讃歌コメディ。兄が通う喫茶店の看板娘役で芳根京子がレギュラー出演。さらに兄弟が「レンタルおやじ」を始めるきっかけとなる人物・ムラタを宮藤官九郎、滝藤演じる弟の妻を中村優子が演じる。また、依頼主のトップバッターを市川実日子が飾り、以降、門脇麦、川島鈴遥、 岸井ゆきの、小林薫、望月歩、吉沢悠(※五十音順)といった豪華なメンバーが各話にゲスト出演する。
放送日時
テレビ東京系 2020年1月10日 START 毎週金曜 24:12~
出演者
古舘寛治、滝藤賢一、芳根京子
監督
山下敦弘
脚本
野木亜紀子
ドラマ24「コタキ兄弟と四苦八苦」(番組公式ページ)
※この記事はauテレビでも掲載されました。
http://sp.tvez.jp/(スマートフォン向けサイトです)
この記事を書いた人
ウィルメディア編集部
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