13歳で江戸幕府第14代将軍になった徳川家茂。将軍後見職に付いた慶喜(草彅剛)に支えられながらも自分の意志を表す様子や、結婚した皇女・和宮(深川麻衣)と仲睦まじい様子が印象的です。家茂を演じるのは、大河ドラマ初出演となる磯村勇斗さん。「実在した方を演じるのはすごく責任を感じます」と語る磯村さんに、将軍を演じることについての苦労や撮影エピソード、作品への思いをお聞きしました。
「どのような身分の人に対しても寄り添える、気持ちの穏やかな将軍ができたらいいなと思って演じました」
――徳川家茂役のオファーを受けた時の気持ちを教えてください。
「初めての大河ドラマ出演なので、お話をいただいたときは、自分にできるのだろうかという不安が大きかったんです。でも以前から大河ドラマに挑戦したいという気持ちがあったのでうれしかったですし、連続テレビ小説『ひよっこ』に出演したときのスタッフの方たちもいらっしゃったので、またご一緒できることが楽しみでした。
大河ドラマのような時代もののドラマは所作も言葉遣いも違います。僕は時代劇も初めてなので、これまで自分が培ってきたものとは違う芝居のスキルを習得しなければならず、クランクイン前はとてもドキドキしました。けれど、勉強すればするほど所作もその時代についての知識も身についてきたので、徐々に自分の武器がひとつずつ増えていくような気がしました。まだまだ未熟なので、もっと知っていきたいです」
――将軍という役柄は、所作も人一倍気を遣いそうですね。
「クランクイン前に所作指導の先生に将軍としての姿勢、歩き方、手の置き方などを教えていただき、あとは現場でその都度わからないことがあったら先生に聞きながら家茂を作り上げていきました。でも、“所作=動きの制限”と考えてしまい、自然に芝居することが最初は難しかったですね。ただ、演じていくうちに家茂の感情が一番大事だと思うようになり、難しい所作も気持ちで乗り越えることができたというのは新しい発見でした」
――13歳の家茂を演じることも難しかったのでは?
「最初に、“本当に13歳の役を僕がやるんですか?”と確認してしまいましたが(笑)、演出の方から、無理に13歳にならなくていいとお聞きしたので、“あどけなさが少し見えたらいいのかな”という気持ちで演じました。家茂は13歳で将軍になり、21歳で亡くなってしまいますが、まだ子供でなにもわからないながらも一生懸命にあの時代を背負った人物なのだと思います。本作の家茂は周りからちぐはぐなことを言われ、それら様々な意見を取り入れないといけなかったので、すごく苦しかったのではないでしょうか。僕は家茂がとても気遣いができる将軍だと思ったので、威張った怖い将軍というよりも、どのような身分の人に対しても寄り添える、気持ちの穏やかな将軍ができたらいいなと思って演じました」
――和宮とのシーンは二人の仲の良さが見て取れます。
「二人のシーンは、和宮役の深川さんとの呼吸が一緒になっていくような、すごく温かい時間が流れていた印象です。離れ離れになり、見ていて心が苦しくなる展開もありますが、二人が幸せであってほしいと思っていただける、そんなシーンになったのかなと思います。二人は政略結婚で出会ったものの、家茂は和宮さまをひとりの女性として一途に愛し、心の支えにしていたと思います。いろいろな人たちに翻弄されても、家茂の精神がぶれずに気持ちが落ちこまないでいられたのは、和宮さまという存在があったからなのだと思います」
――慶喜との関係性についてはどのように感じますか?
「家茂は自分が若くてなにもできなかったときに慶喜が手助けしてくれたものの、どこか悔しいという気持ちがあったのではないでしょうか。自分の力が足りないばかりに、慶喜にいいところを全部持っていかれてしまうような……。お互い言いたいことを言えず、上辺だけの関係性がずっと続いていたのかなと感じます。でもそんな二人が打ち解けて、心が通じあうことができるシーンが家茂の最期のときに用意されていて、素敵なシーンになったと思います。
慶喜役の草彅さんとはなかなか話す機会がなかったのですが、芝居で会話できていたのではないかと思います。草彅さんは独特な空気があるのですが、慶喜の姿が作られたものじゃなく、とても自然なので、慶喜も草彅さんも素敵だなと思って見ていました」
――では最後にメッセージをお願いします。
「本作の主人公・渋沢栄一はすごく熱くて開拓していく力がある人ですが、『青天を衝け』を見ていて思うのは、どの時代においても、出会いがすごく大事なのだということです。誰に会い、どのような言葉をもらい、どのような大人になっていくのか。家茂は栄一には会えませんでしたが、その分、慶喜がいますからね。栄一がこれからどんな人と出会っていくのか、周りの人々にも注目して見ていただけたらと思います」
≫大河ドラマ『青天を衝け』(番組公式ページ)