映像化不可能と⾔われた同名⼩説を、チェコ・ヌーヴェルヴァーグの巨匠フランチシェク・ヴラーチルが映画化。

© 1967 The Czech Film Fund and Národní filmový archiv, Prague

 
原作は、チェコでは知らぬ者がいないという、ヴラジスラフ・ヴァンチュラによる同名⼩説。キリスト教と異教、⼈間と野⽣、愛と暴⼒に翻弄される⼈々を描いた本作は、『アンドレイ・ルブリョフ』(ʼ71年/アンドレイ・タルコフスキー監督)、『七⼈の侍』(ʼ 54年/⿊沢明監督)などと並び評され、1998年にはチェコの映画批評家とジャーナリストを対象にした世論調査で史上最⾼の映画に選出された。
「過去の出来事をなぞるのではなく、歴史の内側を直感的に捉えたい」という監督の強い執念から、⾐装や武器などの⼩道具を当時と同じ素材・⽅法で作成し、極寒の⼭奥で⽣活しながら548⽇間にもわたるロケーション撮影を⾏なった。⾐装を『アマデウス』でアカデミー賞を受賞したテオドール・ピステック、⾳楽をヤン・シュヴァンクマイエル作品など多くの映画⾳楽を⼿掛けるズデニェク・リシュカが担当し、綿密にして⼤胆、崇⾼で獰猛なエネルギーに満ちた「フィルム=オペラ」が完成。55年の時を経てついに初の⽇本での劇場公開となる。

舞台は13世紀半ば、動乱のボヘミア王国。ロハーチェクの領主コズリークは、勇猛な騎⼠であると同時に残虐な盗賊でもあった。ある凍てつく冬の⽇、コズリークの息⼦ミコラーシュとアダムは遠征中の伯爵⼀⾏を襲撃し、伯爵の息⼦クリスティアンを捕虜として捕らえる。王は捕虜奪還とロハーチェク討伐を試み、将軍ピヴォを指揮官とする精鋭部隊を送る。
⼀⽅オボジシュテェの領主ラザルは、時にコズリーク⼀⾨の獲物を横取りしながらも豊かに暮らしていた。彼にはマルケータという、将来修道⼥になることを約束されている娘がいた。国王軍の襲撃に備え同盟を組むことをミコラーシュに持ち掛けられたラザルは、それを拒否し国王軍についたことで砦を焼かれ、娘のマルケータを拉致された。
マルケータは残忍な仕打ちを受けながらも、⾃分のことを守ろうとするミコラーシュを次第に愛し始める…。

この作品を見ていると、今本当に自分の目の前で繰り広げられている出来事なのではないかと錯覚してしまう。映像は白黒で、言語は全く聞き取れず、美しくも不気味な音楽が響いているにも関わらず、まるで13世紀半ばのボヘミア王国にタイムスリップしてしまったかのようだ。それくらい、この映画には人を引き込む要素がある。薄っぺらい信仰や、粗暴な人間の行い…。2022年の現在とはかけ離れている世界観の基礎が、生々しく描かれている。そんな世界の中で生まれたマルケータの呪われた恋が、いったいどのような結末を迎えるのか。ぜひ映画館で彼女の行く末を見守ってほしい。

『マルケータ・ラザロヴァー』は、7月2日(土)よりシアター・イメージフォーラムほか全国順次公開。

映画情報

監督・脚本:フランチシェク・ヴラーチル
原作:ヴラジスラフ・ヴァンチュラ
脚本:フランチシェク・パヴリーチェク
撮影:ベドジフ・バチュカ
美術・⾐装:テオドール・ピステック
⾳楽:ズデニェク・リシュカ
出演:マグダ・ヴァーシャーリオヴァー、ヨゼフ・ケムル、フランチシェク・ヴェレツキー、イヴァン・パルーフ、パヴラ・ポラーシュコヴァー

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