イクメン同士のゲイ不倫
2016年に作家から引退することを発表した樋口毅宏氏。翌年復帰してから三作目となる『東京パパ友ラブストーリー』がリリースされた。
本作のテーマは「イクメン×BL」。
主人公の有馬豪は、30歳という若さながら、渋谷にあるファンドマネージメント会社のCEO。仕事は多忙を極めるが、私生活では妻の言いなりで、5歳になる娘の亜梨を保育園へ送り届ける日々。
その保育園で鐘山明人という、おっさん建築家と出会う。鐘山の妻はタレント議員で、家事や育児は鐘山の担当。同じくイクメンで有馬と同じように、妻への不満が蓄積していた。
顔見知り程度の間柄だったが、ある日、「お互いイクメンとして妻の悪口を言い合おう」と、鐘山から飲みに誘われる有馬。楽しい時を過ごした有馬だったが、その夜、鐘山に唇を奪われてしまう。
自伝的要素が強い本作の磁力
怒りながらも、気持ちが傾いていくのを感じる有馬。
お互いを求めあう切なさ、子育てと仕事の葛藤、夫婦間の狂気…。
こうして、ゲイ不倫への扉を開く2人だったーー。
『さらば雑司ヶ谷』で衝撃の作家デビューを飾り、その後も『民宿雪国』や『タモリ論』など、様々なジャンルへの造詣の深さを見せた樋口氏。包み隠さない性描写と、バイオレンスとスピード感のある展開で、読者を虜にしてきたが、本作は自身もイクメンということで、自伝的要素が強いのだろう。
ドラマ『おっさんずラブ』の映画化決定、漫画『きのう何食べた?』のドラマ化、と図らずしてリリースのタイミングが合うあたり、時代を引き寄せる磁力を持った一冊だ。
担当編集者のコメント
樋口毅宏さんは、育児のためにいったん引退宣言をして、現在ほぼ主夫生活をしていらっしゃいます。一読して仰天しました。「男もすなる育児小説」もここまできたか……と。育児と仕事の葛藤、夫婦間のぎくしゃく、かつての我が身を重ねてのめり込むように読みました。一見、ボーイズラブの衣をまとっていますが、女性のDV、性、ミソジニ―など、現代のさまざまな問題が描かれた、子持ちの身にもそうでない身にも刺さりまくる、樋口さんの本音全開の小説です。ぜひご高覧、ご吹聴くださいますよう、お願いいたします。
樋口毅宏プロフィール
1971年東京都豊島区雑司が谷生まれ。出版社勤務ののち、2009年『さらば雑司ヶ谷』で作家デビュー。2011年『民宿雪国』で第24回山本周五郎賞候補および第2回山田風太郎賞候補、2012年『テロルのすべて』で第14回大藪春彦賞候補に。ほかの著書に『日本のセックス』『甘い復讐』『ドルフィン・ソングを救え!』『アクシデント・レポート』などがある。
- 書籍情報
- 『東京パパ友ラブストーリー』
・著者:樋口毅宏
・発行:講談社
・仕様:四六ワイド判:224ページ
・装画:志村貴子
・定価:本体1400円(税別)
・ISBN:978-4-06-513660-7
・『東京パパ友ラブストーリー』
- この記事を書いた人
- 栗林 勝/編集者/1970年東京都生まれ。
専修大学英文科を卒業後、20年ほどアダルト・サブカル系出版社で、雑誌・書籍・ウェブ編集を経験。広く、浅く、安く、をモットーにうす〜く生きている。
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