新一万円札の顔としても注目される「渋沢栄一」は、約500の企業を育て、約600の社会公共事業に関わった「日本資本主義の父」と呼ばれる人物。晩年は民間外交にも力を注ぎ、ノーベル平和賞の候補に2度選ばれるなど、その活躍は多岐にわたる。大河ドラマ『青天を衝け』では、彼が若かりし頃、徳川幕府最後の将軍・慶喜と出会い、幕末から明治へ、時代の大渦に翻弄され挫折を繰り返しながらも、高い志を持って未来を切り開いていった姿を描く。主演は、大河ドラマ初出演にして初主演の吉沢亮。近代日本のあるべき姿を追い続けた渋沢栄一の挑戦と魅力的な人物像について、吉沢が熱き思いを語った。
 
「吉沢亮といえば『青天を衝け』だよねと言っていただけるよう、皆さんに愛される渋沢栄一にしたい」

――本作で描かれる渋沢栄一像をどのように捉えていますか?
渋沢栄一さんは、百姓の家に育ちながら尊王攘夷の思想に惹かれ、それが行動の指針になったと思ったら次は幕臣になったりと、実業家になるまで、波乱万丈の人生を送られた方です。本作では、どんな立場の人が相手でも意見を曲げない頑固さがある一方で、自分が間違っていると分かったらすぐ頭を切り変える柔軟さも持ち合わせる人物として描かれています。そんな栄一が生まれた血洗島のシーンを演じて思うのは、彼の考え方・戦い方は血洗島を出て世界が広がっても変わらないということです。利益を生むことはもちろん大事ですが、それが私欲につながるのではなく、村や社会など、全体にとっての利益を目指すことが根底にあって、さらにその利益の中には道徳がないと成立しない。そんな考え方が子どものころから培われ、変わらないところが素晴らしいと思います。

――栄一に共感する部分はありますか?
『青天を衝け』では、目上の相手でも自分が理不尽だと感じたことには立ち向かっていく姿が描かれており、誰に対しても対等に向き合おうとするので、共感というよりも、“自分もこうなりたい”とすごく思います。広い視点で物事を見て、互いの立場ではなく相手の人間力を見るので、演じていてもすごくかっこいいと思います。ただ、栄一は本当に裏表がないので、自分の感情や周りへの思いがつい素直に口や態度に出てしまうこともあるんです。僕はこれまでこれほど裏表がない人物を演じたことがないので、最初は戸惑いましたが、演じていくうちにその裏表のなさが気持ちよくなり、どんどん楽しくなっています。
 

――栄一が生きた時代の変わり目と、令和の生活様式の変化もなにかシンクロする部分があるように感じます。
昨年からいろいろなことが変わったと思います。今は誰もがマスクをするのが当たり前ですし、消毒をしたり、人との距離感もものすごく意識する時代になりました。一方、渋沢さんが経験した時代の変わり目というのは日本史上最大ではないかというほど、服装や髪型もガラッと変わり、精神の持ちようさえも変わりました。今と昔、当たり前だったものが当たり前ではなくなる部分が共通しているように思います。きっと当時の人たちも変化をすんなり受け入れることができなかったと思うのですが、栄一は万国博覧会のためにフランスのパリに行くと、その後すぐにちょんまげを切って、妻の千代(橋本愛)に情けないと言われたりするんです(笑)。そういう吸収力の良さも栄一のすごいところだと思うので、気持ちの変化を丁寧に演じたいと思います。
『青天を衝け』はポジティブでエネルギッシュな作品です。そして時代の変わり目を描くというのは今回の大河ドラマの強みだと思うので、こんな時代だからこそ、見てくださる方を勇気づけられる作品にできたらうれしいです。

――大河ドラマ初出演で初主演ですが、プレッシャーはありますか?
大河ドラマの主演と聞いたときはプレッシャーが大きかったのですが、いざ現場に入ってみると、セットの大きさや素晴らしいキャストの方々、スタッフの方たちの熱量を前にして、プレッシャーよりこんな贅沢な場所でお芝居ができるんだという喜びのほうが大きかったです。座長としてみんなを引っ張っていこうというよりも、“皆さんが引っ張ってください”というようなテンションで(笑)、僕は自分のやるべきことを真面目にやっていこうと思います。一年以上かけてひとりの人生を描き、その人物を演じることができる経験というのは大河ドラマならではのだいご味だと思います。まだデビューして11年ほどですが、いろいろ学ばせていただきながら、この先、吉沢亮といえば『青天を衝け』だよねと言っていただけるよう、皆さんに愛される渋沢栄一にしたいです。

――戦国ではなく、幕末から始まる大河ドラマのイメージは?
幕末というと「新選組」のイメージがすごく強かったのですが、今回、渋沢栄一さんを描くとお聞きして、すごく楽しみでした。これまでの大河ドラマは誰もが知っている歴史上のヒーローを主人公に描いている作品が多い印象ですが、渋沢栄一さんを深く描いた作品は大河ドラマはもちろんほかにもあまりないんです。ですから、実業家として名を残すまでにどのような人生を歩んできたのかご存じの方は少ないと思います。きっと視聴者の方もあまり予想できないような、今までにないドラマになるのではないでしょうか。
 

――では、『青天を衝け』の見どころをお願いします。
脚本の大森美香さんからは、渋沢栄一さんのかっこいい部分だけでなく、周りに振り回されるちょっとした情けない部分や人間としてのかわいらしさを描いていきたいとお聞きしました。僕も栄一のそういったチャーミングな一面が自然と出せるように演じていきたいですし、下手したら死んでもおかしくない経験を何回もしながら91歳まで人生を全うした人間の生命力みたいなものを伝えられたらと思います。物語の前半は、栄一を中心とした“血洗島”と、徳川慶喜(草彅剛)を中心とした“江戸”の2つの軸で展開していきます。一見雰囲気は違うのですが、根本的な部分が実はつながっている仕掛けがあったりするので、僕自身すごく楽しみですし、皆さんにも注目して見ていただきたいです。

あらすじ

天保11(1840)年。血洗島村(現在の埼玉県深谷市)の農家に渋沢栄一は生まれた。家業は、染料のもとになる藍玉づくりと養蚕。職人気質の父と慈愛あふれる母のもと、近隣に住む従兄弟たちとともに育つ。一方、血洗島村から約150キロ離れた水戸藩では、栄一より3年早く生まれた七郎麻呂(のちの15代将軍・徳川慶喜)が、父・斉昭による厳しい教育を受けていた。慶喜の存在なくして栄一は語れない。農民の栄一が倒幕を志したものの、まるで正反対の幕臣となり、さらに新時代を切り開くことができたのは慶喜との出会いがあったからこそだった。やがて重なる二人の物語が、血洗島と水戸からそれぞれ動きだす。

出演:吉沢亮
小林薫、和久井映見、村川絵梨、高良健吾、成海璃子、田辺誠一、満島真之介、橋本愛、岡田健史、平泉成、朝加真由美、竹中直人、渡辺いっけい、津田寛治、草彅剛、堤真一、木村佳乃
作:大森美香

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