スタイリスト/杉浦優、ヘアメイク/松田蓉

 
鎌倉幕府三代将軍・源実朝を演じるのは『平清盛』(2012年)、『軍師官兵衛』(2014年)に続き、大河ドラマ三度目の出演となる柿澤勇人さんです。執権を義時(小栗旬)に任せていた実朝ですが、次第に義時との関係も変わっていくようです。悩みながらも成長していく実朝の心の内をどのように捉えているのか、撮影エピソードとともにお聞きしました。
 


スタイリスト/杉浦優、ヘアメイク/松田蓉

 
――源実朝を演じるにあたりどのような準備をしましたか?
いただいた資料のほか、時代考証に入ってくださっている坂井孝一先生の本と太宰治の「右大臣実朝」、あとは僕のマネージャーが持っていた「金槐和歌集」を読みました。坂井先生の本は今回の実朝像にとても近いので、かなり読み込みましたね。太宰治の本はフィクションですが、「吾妻鏡」に書かれているような政にネガティブな実朝ではなく、いかに良い将軍だったのかということが書かれていたので、参考にさせていただきました。また、和歌についても勉強したのですが、実朝の和歌は、船をこいでいる漁師を見て、この平和がずっと続けばいいとか、庭先の梅を見て、僕がいなくなっても忘れないでねというような、なんてことのない日常の風景や人から自分の感情を結びつけるものが多く、華やかさや派手さがないんです。そんな和歌からも実朝のピュアさを感じることができました。


©NHK

 
――これまでのシーンで印象深いエピソードはありますか?
第34回で実朝が義時に「婚姻はどうなった」と聞き、義時が自分の婚姻のことと間違えて答えてしまうシーンがありました。そこで義時が部屋の明かりをつけるために持っていた火を消そうとするのですが、なかなか消えず、どうしようとなったときに、僕がいつも持っている鎌倉殿の扇子をパッと開いて消したんです。あれは本番のアドリブというか、とっさにやってしまったことなんですけど、放送でそのまま使ってくださっていたのは嬉しかったですね。


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――和田義盛とのシーンも楽しいシーンが多いですよね。
実朝は人を愛することなど、パーソナルな部分でも悩んでいて、とにかくずっと下を向いていました。どうしたらいいのかわからないときに御家人のなかでも言うことは荒いけれど、すごく純粋なところがある義盛に共鳴したのではないかと思います。脚本を書かれている三谷幸喜さんからは、実朝と義盛の関係性について、シェイクスピアの「ヘンリー四世」に出てくるハル王子とフォルスタッフの関係を意識しているとお聞きしました。真面目なハル王子は若くして王子になり、これから偉くならなくてはいけないけれど、大酒飲みのフォルスタッフに「固いことは考えない、とにかく飲んで遊ぼうぜ」と、違う世界を教えられるんです。そういう関係を三谷さんは意識されていて、ああ、なるほどなと思いました。僕はシェイクスピアの舞台を何度か経験していますし、義盛を演じる横田栄司さんはものすごい数のシェイクスピアの舞台に出演しているのですぐ腑に落ちましたね。栄司さんとは二人で飲みに行く仲で、「良きお兄ちゃん」です。


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――幼いころからそばにいる義時は実朝にとってどのような存在だと思いますか?
立場でいうともちろん鎌倉殿のほうが上ですが、年齢も離れていますし、鎌倉殿になった時点では自分が無力だということもわかっていたので、実権を母・政子や義時に任せていました。でも次第にそのパワーバランスが崩れていきます。最初は義時を信用していた部分もあったのでしょうが、義時のやっていることと自分が思い描いていたことが乖離していったのだと思います。義時の持っているパワーを抑え、義時とは違う別の力を持って政をしていかないと、どんどん悪い方向に向かっていくのではないか。敵意とは違いますが、かなり危ない存在と意識していきます。


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――では、名付け親でもある後鳥羽上皇とはどのような思いで関係を深くしていくと思いますか?
実朝は父・源頼朝(大泉洋)に物心ついてから会ったことがないですし、周りからは偉大な人だと聞いていたので、すごくコンプレックスがあったと思います。父のように振舞いたいけれど振舞えない。実朝にとって自分に一番欠けている存在は父親だったという感覚があるのではないでしょうか。後鳥羽上皇(尾上松也)は自分の名付け親なので、父親のように慕い、彼のやり方にとても影響されたのだと思います。自分には力がないけれど後鳥羽上皇には力がある。その力を借りることができれば自分もきっと鎌倉殿として、鎌倉から日本を良くすることができるのではないかと考えていたのだと思います。


スタイリスト/杉浦優、ヘアメイク/松田蓉子

 
――実朝はいい将軍だと思いますか?
実朝は賢いですし、争いごとや人を傷つけることが本当に嫌な人だったと思うんです。今回の大河ドラマで演じていても、実朝について書かれた研究を見ても感じることは、本当にこの人がトップに立っていたらすごくいい時代になったのではないかということです。いろいろ悩みながらもきっといい政治を行っていたと思います。

――ありがとうございました。
 

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